ゴー宣DOJO

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切通理作
2018.9.4 12:01

もはや止められません

小林さんが私の監督デビュー作『青春夜話』を観てくださったのは嬉しい。

エンタメ性については、色んなレベルで今後もっと磨いていかなければと思っている。

いま評判になっている、『青春夜話』を最初に上映頂いたのと同じミニシアターである新宿ケイズシネマから始まって100万人を超える動員を果たし、さらに拡大の模様である『カメラを止めるな!』という映画の成功は、私が自作の興行で認識してきたと思えた地方の単館系映画館の観客動員の「現状」をことごとくくつがえすものだった。

地方でも『青春夜話』を上映したのと同じミニシアターで『カメラを止めるな!』をかけることも多かったが「地方は口コミが広がらない。住んでいる人が映画館に出かけたがらない。テレビでも有名な役者が出てくる映画か、老人にとって関心のあるもの以外はまず見に行かない」のだと私も上映させていただく前から忠告を受けた。「だからあまり落胆しないでね」と。

また大宣伝もできない映画の動員ははじめから「このぐらい」という認識があり、ミニシアターでも一日に複数の映画をかけることで、グロスの興行を成り立たせる。「だから自分だけが責任意識に押しつぶされることはないですよ」と。

だが『カメラを止めるな!』は有名スターなど誰一人出ていないのにも関わらず、ミニシアターで朝から複数の回の予約がすぐ埋まってしまい、シネコンでの拡大でも同様の事態が起きている。というより、拡大した段階でもうシネコンだけでやってもいいようなものであろうが、あえてミニシアターでも同時公開がなされ、狭い映画館での一体感を体験したい人たちが次々と「ミニシアター初体験」を果たしているのだ。

『カメラを止めるな!』はたしかに話題にはなっているが、それでも大作映画に比べたら、地方にまであまねく情報を刷り込めるほどではない。

だがその映画に対して見た人が思いを持てば、人に勧めたくなるし、底から噴き上がるように支持が広がっていくのだ。今日もツイッターでは、広島県の若者が、自分のおばあちゃんに『カメラを止めるな!』を見せたくて映画館に連れて行ったとつぶやいていた(彼の、面白い映画を見せて、おばあちゃんを「びっくりさせよう」と思った・・・という言い方がとても素敵だ)。その映画館・シネマ尾道も『青春夜話』を上映してくれた映画館だ。

わが『青春夜話』の興行においても、ハマッた人が何度も見に来てくれたり、地方で来てくれた人が東京の時も来てくれたりその逆もあった一方、今日自分の誕生日なのに淋しいから夜やってるこの映画をたまたま見に来て孤独が癒されたので「二作目も楽しみにしています」と言われるなど、全国あまねく上映することの意義と出会いの大切さをあらためて実感したものだが、『カメラを止めるな!』は何度でも見たいというリピーターの数の多さと、そういう人に勧められて見に来た人と、話題になっているから見てやろうじゃないかとい人がうねりのようにブームを巻き起こしている。

もちろん、『青春夜話』は、自分の恥ずかしい記憶、ポケットの中にしまったものを取り出すような、個人が個人に届けるような質の映画であり、『カメラを止めるな!』のような、「みんなで盛り上がる」映画ではないという言い方も出来よう。

けれど、人間が根本のところで受け取る感情や感動というのは変わらないものであって、『カメラを止めるな!』は(ネタバレ厳禁が重要な映画なので具体的な内容には言及しないが)それをエンタメに昇華していることに対する、観客との共有度が高い作品なのは間違いないところだ。

私は5月のシネマ尾道での『青春夜話』興行の際に二作目の監督作品の撮影を現地で始め、先日8月31日にその東京での撮影部分を終えてクランクアップした。『カメラを止めるな!』現象はその間に起きたことであって、映画の発想やストーリーそのものに影響は与えていない。

映画作りは、その渦中で起きたことから自分自身が影響を受けたとしても、その反映を構想段階からできるのは「次の次」の作品だったりする。そしてその時点では「次の次の次」にやれなかったこと、やり残したことの自覚を反映させたくなってしまうことはもう見えている。まさに抜けられないロードに走り出たようなものだと思います。

切通理作

昭和39年、東京都生まれ。和光大学卒業。文化批評、エッセイを主に手がける。
『宮崎駿の<世界>』(ちくま新書)で第24回サントリー学芸賞受賞。著書に『サンタ服を着た女の子ーときめきクリスマス論』(白水社)、『失恋論』(角川学芸出版)、『山田洋次の<世界>』(ちくま新著)、『ポップカルチャー 若者の世紀』(廣済堂出版)、『特撮黙示録』(太田出版)、『ある朝、セカイは死んでいた』(文藝春秋)、『地球はウルトラマンの星』(ソニー・マガジンズ)、『お前がセカイを殺したいなら』(フィルムアート社)、『怪獣使いと少年 ウルトラマンの作家たち』(宝島社)、『本多猪四郎 無冠の巨匠』『怪獣少年の〈復讐〉~70年代怪獣ブームの光と影』(洋泉社)など。

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